2002年3月、私はベトナム南部に位置するホーチミン市郊外のダフォック地区で、CEP(Capital Aid Fund for Employment for the Poor)という団体が行うマイクロクレジット事業を視察しました。
マイクロクレジットというのは、経済的に困窮しているひとびとに、少額の融資を行うことによって、その生活の自立を支援することを目的としています。
ここではローンの利用者はまず5人のグループをつくります。これは、形式上は同じグループ・メンバーの債務についての連帯保証人となりますが、実態は資金計画や事業についてのノウハウなどをお互いに交換し合い、一緒に経済的な自立を目指す結束したチームとして機能します。
メンバーはまず、団体から日本円で数千円程度の融資を受けて、鶏を買い、家で育てて4ヶ月後に1万円程度で売って利益を得ます。次のサイクルでは、融資金額を少し増やしてもらいながら、豚の飼育などややリスクが高い事業へと進みます。ここでの最大のリスクとは、豚が病気にかかることです。そこで飼育場の衛生を保つノウハウをメンバーや団体スタッフと共有していきます。
さらに次のステップとして、魚の養殖や果樹園などへと進んでいくと、より高度な管理が必要となり、また飼育している豚の糞を肥料や魚の餌にするといったノウハウが蓄積されていきます。そして生態系を利用した工夫を積み重ねることで、農薬や化学肥料といったものに頼ることのない生産をおこなっていきます。このようなサイクルを繰り返しながら、メンバーは経済的にも社会的にも自立を達成していきます。ローンの利用者のひとりが、自宅の養殖池の前で説明をしてくれましたが、家族を養う自信に満ちたその表情が、今でも強く印象に残っています。
このマイクロクレジットで私が最も驚いたことは、その融資事業としての収益性の高さでした。視察時に団体から見せてもらった資料によると、その収益性は一般の銀行をはるかに凌駕するレベルでした。その秘密は、融資の貸し倒れの低さです。メンバーへの融資はほとんど貸し倒れることはありません。ローン利用者の経済的な自立を目指す強い意思が、この収益性を支えているといえます。
たとえ少額であっても、環境問題や貧困問題といった社会的な課題の解決のために、より直接的でインパクトの大きいお金の使い方というものを、私はこのときはじめて知りました。
お金を通じて世の中を良い方向に変えていく。このマイクロクレジットをバングラデッシュの農村部で考え出し、グラミン銀行を設立したムハムド・ユヌス氏に、ノルウェー・ノーベル委員会は、2006年ノーベル平和賞を贈っています。
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速水 禎(はやみ ただし)
朝日ライフ アセットマネジメント株式会社 資産運用部 リサーチチーム SRI運用チーフファンドマネジャー。1988年早稲田大学法学部卒。野村證券株式会社・野村投資顧問株式会社(現 野村アセットマネジメント株式会社)を経て、2000年に朝日ライフ アセットマネジメント株式会社入社。2000年より「朝日ライフ SRI 社会貢献ファンド(愛称:あすのはね)」の運用を担当。著書に「SRI社会的責任投資入門」(日本経済新聞社、共著)。SRIに関する講演・執筆など多数。
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